碧潭看月

徒然なる言葉の羅列が意味を成すように見える、兼好法師も読んで呆れる駄文の数々。

私的欧州周遊紀行 其一

 十日ばかりフランス・ベルギー・イギリスを見物してきたので、その間の出来事を思い出しつつ綴ろうと思う。

 仏語にはアクサンがあるが、キーボードの仕様上省略している。ご勘弁願いたい。

 

 

 八月五日、羽田よりパリへ発つ。欧州旅行は初めてであり、心躍らせながら搭乗する。航空会社はエールフランス航空。機内サービスは至って平凡か。座席後方のギャレーに軽食を用意する気前の良さによろこぶ。しかし、あまりの飛行時間の長さに気が滅入る。同日夜、シャルル・ドゴール空港に着く。二十時でも明るいことに驚く。到着ゲートからバゲージ・クレームまで電車で向かう。空港の広さに更に驚く。荷物を受け取ったあと、RER B線でパリ市内へ。数十分後、パリ北駅(Gare du Nord)に到着。ホステルまで徒歩で向かおうとした矢先、謎の黒人に声をかけられる。なんとか逃げおおせるも、夜間のターミナル駅の治安の悪さを実感する。大通りを恐る恐る早足で歩き、ホステルに着く。ジネレータ・パリという名。内部の雰囲気は良い。ここで初めてインターネット接続を得て、治安の悪い区に宿をとってしまったことを知る。絶望と疲れを同時に感じ、就寝。

 

 八月六日、十時ごろホステルを出る。最寄りのルイ・ブラン駅(Louis Blanc)より、地下鉄七号線でパリ中心地へ。ルーヴル美術館を見学しようと、パレ・ロワイヤル/ルーヴル美術館駅(Palais Royal/Musee du Louvre)で下車する。美術館は休館。写真だけは撮っておく。気を取り直してチュイルリー庭園へ。あまり見るものはない。さらに歩くと、オベリスクが見えてきた。コンコルド広場である。かのマリー・アントワネットが処刑された広場であるが、面影は全くない。コンコルゲンの歌を口ずさむ。コンコルド広場にいる人間なので、略してコンコルゲン。オベリスクは観光客の撮影スポットと化していた。あまり興味がわかなかったので、そのままシャンゼリゼ通りへ。高級ブランドが立ち並ぶ。煌びやかな通りである。貧乏人には用がないとみて、通りのマクドナルドに入る。初めてタッチパネル式の注文を体験する。きわめて良いアイデアだと思う。しかし、ビッグマックセットのあまりの高さに驚く。確か千円を越していた。これまで行ったあらゆるマクドナルドの中で、シャンゼリゼ通りが一番高かった。場所代だと諦めながら、一休み。

 しっかり休んだあと、凱旋門へ。観光客でごった返していた。遠目から眺めると、人々が門の屋上で群れている。どうも上れるようだ。金の無駄なので写真だけ撮って去った。凱旋門周辺を歩く。今度はエリゼ宮へ。途中、道に迷う。心優しい警官が道を教えてくれた。宮殿は警備が厳しい。小銃で武装した警官が何名もいた。鉄柵とパトカーでバリケードが作られている。やはりデモの影響なのだろうか。いや、元からだろう。そんな思索を巡らせる。宮殿前の通りを散策する。日本人が考える欧州らしさが詰まっているような通りだった。位置関係としては、日本で言えば永田町だろうか。ふと、母校を思い出す。

 散策ついでに手に入れておきたいものがあった。SIMカード。空港で買いそびれたまま機会を逃していた。検索すると、フランスにはFree Mobileという格安SIMがあるという。EU圏内ではローミングしても無料である。だから、安くて通信容量があればあるほど良い。Free Mobileは仏国内100GBかつEU圏内25GBで四千円以下。貧乏旅行者には最適であった。本店へ行き、自動発券機ですぐに入手。

 用が済んだあと、シテ島へ向かう。ジプシーの集団に襲撃されたのはこの間のこと。まず、コンコルド広場前で襲われる。インド系の顔立ちをした少女たちが、何やら紙を持って辺りを眺めている。観光客には見えない。避けて進もうとする。こちらへ向かってくる。どうも募金活動をしているらしい。日本でも東京駅前でよく見るような、怪しい募金活動だろうか。突っ切ろうとする。ところが腕を掴まれ、紙で顔を覆われ、一瞬にしてもみくちゃになる。このとき、襲われていることを自覚した。なんとか振り切る。ふと見ると、鞄のファスナーが開けられているではないか。不味い、何か取られたか。幸い何も盗られていなかった。彼らは渋い顔をしてなにかほざいている。しかし、そんなことはどうでもよかった。私はいやでも現実を知らされたのである。パリとはこういう街であると。衆人環視の中でもジプシーは襲ってくる。彼らが排斥される理由がわかった。これははっきり言って人種差別だろう。でも、モラルは体験を覆せない。憤りにまみれつつセーヌ河畔を歩く。十五分ほど歩くと、また紙を携えたインド系を目にする。手口はわかっている。今度は鞄をしっかり抱えた。そして物言わず走り去る。それでも腕を掴もうとする彼らの貪欲さには呆れてしまった。それが彼らの「伝統」なのだろう。思索を巡らせる。なんとかシテ島に着く。炎上したノートルダム寺院をみる。雨が降ってきた。宿に傘を忘れた。また襲われる恐怖もあり、昼間ながら宿へ帰った。宿ではだらけて過ごす。シャワーを浴び、就寝。